私が台湾を好きになった大きな理由の一つは、台湾の人たちがいかに「食」を重要視しているかということです。美味しいかどうかの味に関するこだわりはさることながら、「食べること=体をつくること」という考えがしっかり根付いており、これぞまさに「医食同源」を古くから大切にしている国なのだと思いました。
台湾では寒くなると「今年も薬膳スープを食べなくちゃ!」と、寒さ対策の薬膳鍋やスープを飲んで冬を乗り切るのが定番です。様々な種類の薬膳スープがありますが、どれも肉や野菜の他、体を内側から温めて血行を良くしてくれる漢方薬材がたっぷり入っています。台湾の人たちは、その時の体調によって食べ分けています。
本格的な漢方薬材を日本で取揃えるのは難しいですが、今回紹介する麻油鶏(マーヨージー)は日本でも入手可能な材料で簡単に作れる、シンプルな薬膳スープです。私もすでに今年も何回か作りました。薬膳料理の入門としても、ぜひおすすめしたい台湾の定番家庭料理です。
麻油鶏(マーヨージー)は台湾の家庭料理の一つで、言わば「台湾風チキンスープ」です。麻油(マーヨー)はゴマ油、鶏(ジー)は鶏肉という意味で、書いて字のごとく、ゴマ油と鶏肉を使ったスープです。
冬に限らず、毎月の生理後や風邪気味の時などに「ちょっと飲んでおこう」という感じで気軽に温めて補える薬膳スープです。台湾ではあちこちの食堂で一年中売っています。東洋医学では「冷えは万病の元」とされており、鶏肉をじっくり煮込んだスープは栄養豊富で体の回復力を高めてくれると言われてるため、台湾では産後にも麻油鶏(マーヨージー)を食べる習慣があります。
麻油鶏(マーヨージー)は日本のカレーのように、それぞれの家庭の味が色濃く出る料理でもあり、家庭によって”秘伝の麻油鶏レシピ”があります。私も最初に習った作り方をもとに自己流にアレンジして、毎回使う食材も少しずつ変えているので、今回はある日のレシピの一例を紹介します。
とにかく作り方も材料もとてもシンプルです。台湾では骨付きの鶏を豪快に叩き切って大鍋一杯に作りますが、日本で気軽に作るためにどこのスーパーでも手に入る鶏肉をベースに、ざっくりとした分量で作っています。
基本の材料(4人分)
- 鶏モモ肉 600g(骨付き鶏モモ肉 300g + 手羽先 300g)
- ショウガ 1/2個
- ニンニク 4片
- ごま油 適量
- 水 600cc
あればもっと美味しくなる材料(なくても大丈夫)
- 米酒(中国の蒸留酒、日本の料理酒でも代用可) 300cc
- シイタケ 8個、タマネギ 2個、ニンジン 2本
- 鷹の爪(辛いのが好きな人はオススメ) 適量
- 枸杞(クコの実) 適量
- 紅棗(ナツメ) 適量
- 黒棗(黒ナツメ) 適量
材料についての補足
- 一枚肉の鳥モモ肉でも良いですが、骨からスープの出汁が出るので、なるべくならば骨付きのものが良いです。
- 鶏肉の半量を手羽先にすると、良質な油とコラーゲンが豊富なスープになり、一段と美味しくなります。
- 台湾では、ゴマ油は焙煎が深い「黒麻油」を使います。濃いめのゴマ油の方が風味豊かなスープになります。
- 台湾の「米酒」は味としては日本の米焼酎に近いです。日本の料理酒を使う場合は塩分が入っているので、それを考慮して最後に味を調整してください。
- 野菜は好きなものを加えてください。他にも、煮崩れしないエリンギやシメジなどのキノコ類や、味の滲みやすい大根もおすすめです。
- 台湾ではスープに「麺線(そうめん)」を入れて煮込んだ「麻油麺線(マーヨーミェンシェン)」というにゅう麺にして食べることも多いです。
- 台湾では少量の塩で軽く味付けするだけですが、塩気が欲しい場合は中華スープの素を適量入れてもいいと思います。
左から黒棗(黒ナツメ)、枸杞(クコの実)、紅棗(ナツメ)です。台湾に行った時にたくさんいただいたので、ジップロックに入れて冷凍庫に保存しています。薬膳料理に使うのはもちろんのこと、おやつ感覚でそのままポリポリ食べても美味しいです。この3つは漢方薬材の中でも全て甘い木の実で、スープに入れると甘くてほっくりと仕上がります。
身体を温める食材として、生姜は欠かせません。私はニンニクも必ず入れます。
生姜は薄切りにスライス、ニンニクは半分に切ります。生姜とニンニクはスープの味付けのみに使用するので、大きめカットで大丈夫です。むしろニンニクはみじん切りにしてしまうと、”ニンニクスープ”になってしまうので注意してください。台湾ではニンニクが一片丸ごとゴロッとスープに入っていることもあります。ピリッと生姜を効かせたい場合は、生姜を千切りにしてスープと一緒に飲んでも美味しいです。
シイタケは大きければ半分か小さければそのまま、ニンジンは一口大、タマネギはくし形に切ります。私はスープにゴロゴロ具材が入っているのが好きなので、基本的に大きめに切っています。野菜はなくても十分美味しいですが、シイタケを入れると格段に風味がアップするので、私はシイタケだけは必ず入れます。
鍋にゴマ油を引き、ニンニクとショウガを入れて軽く炒めます。ショウガがきつね色になり、ベーコンを焼く時と同じように、水分が抜けて端がチリチリとカールし始めるくらいまで炒めます。鶏肉を入れ、表面に軽い焼き色がつくまで炒めます。
野菜を根菜類から先に入れます。ここからは煮込んでしまうので、ざっくりと全体をかき混ぜる程度で大丈夫です。
水600cc(もしくは水300ccと酒300cc)と漢方薬材を加えます。最初は強火、沸騰したら弱火にして、あとはお肉が柔らかくなってスープが出てくるまでじっくり煮込むだけです。
台湾ではだいたい1:1以上の割合でお酒が入っています。”本格的”とされるものは酒100%だったりしますが、沸騰させてもアルコール分が飛びきらず、子供やお酒に弱い人だときつすぎるかもしれないので調整してください。
弱火で煮込む間は、蓋を必ずしてください。スープの材料がシンプルだからこそ、鶏肉から出る香りと風味をしっかりとスープに閉じ込めることがとても大事です。スープにこの風味があるかどうかで美味しさが決まるので、中の様子が気になっても蓋を開けるのはグッと我慢です。
10分ぐらい経つと、野菜がしんなりしてきて、鶏肉から少しずつ油分が出てきているのが見えます。
さらに10分後には、だいぶ油分とコラーゲンがスープに出てきて表面に浮いているのが見えます。鶏モモ肉だけだとここまで旨味が出てこないので、やはり油分の多い部位の手羽先を入れることをオススメします。台湾では骨付の鶏を叩き割って作るので、ゲンコツやハツや手足も当然入っているわけで、日本人にはギョッとするような見た目かもしれません。
最終的にはこれぐらい油分が出てきてスープが出来上がります。時間がなければ30分ぐらい煮込めば食べられますが、台湾の本格的な麻油鶏は骨までホロホロ柔らかくなるまでじっくりと長時間煮込みます。骨ごと食べるので栄養満点です。
作り方はとても簡単ですが、鶏肉の旨味とショウガのピリッとした味わいが効いていて、身体の芯から温まるスープです。思い立ったらすぐに作れる材料なので、覚えておくと便利ですよ。
寒い日には「麻油鶏(マーヨージー)」を飲んで、元気に冬を乗り越えましょう!