多くのメディアで紹介されている「筋膜リリース」。全身のこりや痛み、姿勢の悪さといったカラダの不調を整えるだけでなく、関節の可動域を拡大して競技パフォーマンスをあげるダイレクトな効果が期待できることで、アスリートのトレーニングにも取り入れられています。今回は「筋膜リリース」の効果と、私たちの身体を形作る「筋膜」の仕組みについて紹介します。
筋膜とは?
筋膜リリースについて解説する前に、そもそも筋膜とはいったい何なのでしょうか。たとえば、鶏のモモ肉や胸肉を思い浮かべるとわかりやすいのですが、鶏皮をめくると皮と肉の間に薄い半透明の膜があります。これが「筋外膜」で、ヒトの場合も同じです。鶏皮はすなわち皮膚、そして肉の部分が筋肉で、その筋肉を包み込んでいるのが筋膜の中の筋外膜です。
ヒトの筋膜は実はひとつではなく、「浅筋膜(せんきんまく)」「深筋膜(しんきんまく)/腱膜筋膜(けんまくきんまく)」「筋外膜(きんがいまく)」「筋周膜(きんしゅうまく)」「筋内膜(きんないまく)」の5つからなっています。浅筋膜は皮下組織にあり、深筋膜は全身の筋肉をつなげてボディスーツのようにすっぽりと包み込み、筋外膜はひとつひとつの筋肉を包み、筋周膜と筋内膜に連続しています。さらに筋周膜は筋束を、筋内膜は筋線維1本1本を包み込んでいます。この筋膜は頭から手や足の先まで全身につながり、筋膜以外を溶かしてもカラダの形が残るということで「第2の骨格」ともいわれる重要な存在です。筋肉を正しく動かすためには、これら筋膜が柔軟に動くことが必要なのです。
筋膜には様々な重要な役割があります。まず、各組織を包み込み、組織と組織の間に仕切りをつくり分けると同時に結びつけ、体の姿勢を保つ役割を持ちます。また、組織同士がこすれあうことで生じる摩擦から保護します。さらに筋膜は、筋線維を包んでいる3つ(筋外膜、筋周膜、筋内膜)に構成された構造から、筋線維の動きを支え、力の伝達を行います。
筋膜のよじれやこわばりが、こり・はり・痛みの原因に
悪い姿勢や、同じ作業を繰り返すなどの偏った動作を長時間続けていると、不必要な負担がカラダの一部分に集中して筋肉が固まり、それにともなって筋膜も自由度を失います。そうなると筋膜はよじれてこわばり、筋膜の上にある皮膚と筋膜の下にある筋肉がそれぞれ動きづらくなります。つまり、ひとつの筋肉を包む筋外膜に問題が生じると、その上にある全身の筋肉を包む深筋膜に波及し、深筋膜のつながりを介して他の筋肉へ問題が伝播していきます。その結果、その配列上のすべての筋膜の動きや働きに影響をおよぼして十分な筋力を発揮できなくなり、柔軟性も悪くなって、スポーツではパフォーマンスの低下を引き起こします。そのことが、ひいてはケガを引き起こす要因ともなります。
また、そうした筋膜のよじれやこわばりは、カラダのこりやはり、痛みの症状にあらわれます。この筋膜の機能異常の厄介な点は、その異常を他の部分でかばおうと代償を生じさせることです。ある部分の筋膜のよじれやこわばりが深筋膜から広範囲に広がってしまうことで筋膜自体が自力でほぐれることができなくなり、正しい姿勢や動作が制限されてしまうのです。
筋膜リリースとは?
筋膜自身はコラーゲンでできており、85%が水分です。水分の枯渇やストレス、同じ姿勢でのパソコンやデスクワークなどの長時間作業、筋肉の柔軟性の低下などにより、筋膜同士が癒着(からまる、くっついてしまうこと)してしまい、筋肉自体の動きを阻害してしまいます。筋膜は全身を覆っている組織です。例えば、腰や背中に痛みやコリのある方は、お尻や太もも、股関節部位などの「痛みのある部分の周り」の筋膜をリリースすることによって、症状を改善することができます。肩などの痛みなども同様で、肩や首、腕やわきの下などの筋膜をリリースすることによって、改善することができます。
筋肉がスムーズに動くためには、筋膜の滑りの良さが必要です。筋膜を柔らかくし滑りを良くして、解きほぐすことを「筋膜リリース」と言います。筋膜リリースを行うことにより、筋肉の柔軟性を引き出し、関節の可動域を拡大します。筋膜リリースとは、筋膜の委縮・癒着を引き剥がしたり、引き離したり、こすったりすることで、正常な状態に戻すことを言います。筋膜リリースが時に「筋膜はがし」と翻訳されて呼ばれる理由もここにあります。筋膜組織の機能回復を図るために、物理的に圧迫・刺激を加え、筋膜の乱れを取り除くことを筋膜リリースと呼んでいます。
ウォーミングアップと筋膜リリース
全てのスポーツで、練習や試合の前には必ずウォーミングアップを行うことが大切です。ウォーミングアップの目的は、ケガの予防と筋肉のパフォーマンスの向上です。ウォーミングアップとは、文字通り身体を温めることです。心拍数を上げて、体温を上昇させることにより、よりハードな動きを行うための準備になります。日本を含め、世界中のトップアスリートの多くは、ウォーミングアップする前に筋膜リリースを行います。筋膜リリースを行い筋肉の柔軟性を高めてから、動的ストレッチ、ランニングなどで体を温めます。この流れは、筋肉の構造からしても理にかなったウォーミングアップ方法と言えます。
また近年、日本のスポーツ業界でも“筋膜をセルフケアする”(筋膜リリースを自分自身で行う)という考え方に注目が集まっています。筋膜リリーズはやり方を習得すれば、その日の体調や状態に応じて「柔軟に」「場所を選ばず」「自分のペース」で「簡単に」行うことができます。過酷なスケジュールをこなすスポーツ選手にも、とても有効なウォーミングアップ方法と言えます。
「筋膜リリース」の効果とは
リリースとは「制限を解除する」「解きほぐす」という意味を持つ言葉です。つまり「筋膜リリース」とは、よじれてねじれた筋膜を解きほぐすことを目的としたメソッドです。セルフ筋膜リリースは、筋膜のねじれやよじれを自分自身で時間をかけてリリースすることで元に戻します。ゆっくりと解きほぐし、筋と筋膜の正しい伸張性を回復させ、筋肉が正しくスムーズに動けるようにしてカラダの不調を整えるまさに “治療(セルフメンテナンス)”なのです。
ねじれた筋膜をほぐす
筋膜を構成するコラーゲン線維とエラスチン線維は、悪い姿勢や長時間の同じ姿勢を続けることで一部に寄り集まり、交差してねじれが生じます。カラダを動かしてゆっくりとこのねじれを解きほぐしてあげましょう。
筋肉が正しくスムーズに動くようになる
筋膜のねじれやよじれが元に戻ると、筋肉や筋繊維を包む筋内膜に柔らかさと弾性が復活します。本来備わっていた筋力が発揮でき、正しく動けるカラダにリカバリーされます。
コリがほぐれて動きやすくなる&コリにくいカラダに
筋膜リリース後にこりや痛みの軽減を感じたら、筋膜がリリースされた証拠です。これを2週間続けることで筋力の向上や柔軟性の回復、運動パフォーマンスアップなどが期待でき、こりにくいカラダにもなります。
筋膜リリースを行う上で意識したいこと
カラダの様々な方向へ解きほぐす意識で行なう
全身のつながりを感じながらカラダの内側に意識を集中してじっくり、ゆっくり行なうのがポイントです。
気持ちよくカラダを伸ばして90秒〜3分間
「痛気持ちいい」と感じるぐらいで、少なくとも90秒以上時間をかけてゆっくりとリリースします。最初は20〜30秒から慣らし、だんだん時間を伸ばしていきましょう。
午前・午後・入浴後の1日3回を目標に
できればこまめにカラダの緊張をリセットするのが理想です。スキマ時間を見つけて1日3回のリリースを目指しましょう。入浴すると、筋膜が硬くなっている部分のヒアルロン酸が緩み、筋膜がほぐれやすくなります。
リリース後は常温の水をコップ1〜2杯
リリース後は、組織内に蓄積した有害物質や老廃物を流し去り、不快感を緩和するために常温の水をコップ1〜2杯飲みましょう。
また、筋膜リリースを行う上での次の大事な注意点を覚えておきましょう。まず、腕をあげたり、カラダをひねったりするリリースで、自分自身が「痛気持ちいい」と思う角度で行ないましょう。痛さを我慢したり、勢いをつけてやったりしないようにしましょう。また、悪性腫瘍や動脈瘤、急性期のリウマチ様関節炎、全身あるいは局所感染などの病中、骨折治療中は筋膜リリースを控えましょう。筋膜リリースを試して痛みが取れなくなった、あるいは逆に痛みが悪化したという場合は病院へ受診しましょう。
ツラい肩こり&首こりは「筋膜リリース」でスッキリ解消しよう
肩こりや首こりは、筋や筋肉を包み込んでいる膜である筋膜や関節の過剰使用を原因とする症状です。肩こりの原因は様々で、姿勢の悪さ、運動不足、間違ったエクササイズ、偏った筋肉の使い方、特定の筋肉への持続的緊張や過剰労働、精神的な緊張や自律神経の乱れ、循環障害や加齢、寒さなども誘発原因になります。さらに職場の作業場の明るさや机の高さ、仕事の量やスピードといった環境的要素も肩こりの要因となります。また、意外な原因には、過去のケガがあり、たとえば足の捻挫や手首の骨折が筋膜のつながりを介して肩や首にこりを生じさせることもあります。肩に原因があるから肩がこる、というだけではないのです。たとえ肩に原因があって肩こりになっても、肩の筋肉は僧帽筋の下に肩甲挙筋(けんこうきょきん)、その下には脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)と何層にもなっています。表面だけがこるということは少なく、慢性的に肩こりを感じる人ほどミルフィーユのように何層にも重なってこることになります。
こりとは、筋肉に過剰に負荷がかかった状態です。筋肉の疲労や持続的な筋収縮、血行不足から起こる筋の無意識の収縮によって痛みを感じ、炎症が長期間続くと筋力や柔軟性も低下します。こりの状態が長く続くと、元の正常な状態に戻りづらくなって症状が慢性化し、筋肉は小さく脆弱化してしまいます。肩以外の部位から筋膜を介して肩こりを起こしていたり、ミルフィーユのように層になった筋肉がこっている場合は、こり固まった肩の筋肉をピンポイントにほぐすマッサージやストレッチ、筋トレ、鍼灸などの対処療法では一時的に良くなってもすぐに再発してしまうことになるのです。
自宅で身体をほぐすツール「筋膜リリースローラー」
「フォームローラー」とも呼ばれる「筋膜リリースローラー」とは、「筋膜はがし」のためのエクササイズ器具です。弾力性のある樹脂素材で作られた筒状で、表面に凹凸が付けられたトレーニング器具の筋膜リリースローラーは、様々なサイズのものが市販されています。使い方としては、腰・お腹・背中・肩甲骨・ふくらはぎ・太ももなど、ほぐしたい部位を筋膜リリースローラーの上に置き、自重の負荷を掛けたり、身体の凝りが気になる部分に筋膜リリースローラーを当たるように調整し、ゆっくりとしたペースで揺らしながら、筋肉を刺激していきます。筋膜リリースローラーの上に、腰やお腹やふくらはぎなど疲れを感じる部位を乗せて転がすことで筋膜をはがし、またはストレッチすることで血行の不順が招く身体の不調を改善していくことを目指します。
筋膜リリースローラーを使用したストレッチやエクササイズは、YouTubeに様々なトレーニング動画があるので、自分の悩みに合うものを見つけて実践してみましょう。足腰周りだけでなく、この動画のように頭に使用することで、顔のたるみやむくみにアプローチする使い方もあります。
クーラーの効いた室内で身体を冷やしやすい季節ですが、自宅で毎日手軽にできる筋膜リリースで、むくみ知らずのスッキリした身体を目指しましょう!